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たんげさぜん

丹下左膳

林 不忘

01 乾雲坤竜の巻

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 340,187 字 · 666 页

青空文庫

「御飯ならわたしが盛ってあげますよ」

「ちょッ! この飯じゃアねえや。こうッと、草餅よ。はははは、くさもちは、どうでエ?」

「くさもちはありませんが、かき餅が名物でござんす」

「笑わかしゃがらア! 草もちのかわりにかき餅とくりゃあ世話アねえ。にっぽん語の通じねえところだから情けねえ――それなら姐や、なんだぜ、今夜忍んで行くぜオイ。え? いいだろう?」

「あれ! 知りませんよ」

「なに、知らねえことがあるものか。お前みてえなべっぴんは江戸にも珍しい」

「ホホホ、それほどでもござんすまい――そんな殺し文句をまいて歩くと、あの女がただはおきませんよ」

「何を言やんでえ!」

などと与吉一流の無駄口をたたきながら飯をすまして、一風呂ザアッと流してくるからと按摩を頼み、手拭をぶらさげて突っかけ草履、与吉が廊下へ出たところへ、どこの部屋からかあまり粋とはいえない三味線の音……。

しぐれ降る浅茅ヶ原の夕ぐれに二こえ三声雁がねの、便り待つ身の憂きつらさ――。

と来たときに、お節介な与の公、耳をおさえて、

「よしゃアがれッ!」

と、どなりながら、暗い裏梯子を駈けおりると、とっつきが風呂場になっていて、ガヤガヤと人声がこもっている。