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たんげさぜん

丹下左膳

林 不忘

01 乾雲坤竜の巻

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 340,187 字 · 666 页

青空文庫

入要があったらいつでもそう言ってよこしなさい。大岡様のお眼がねに添うあっしだ、ちゃんとこのとおり、出羽様のお下げ金といっしょに胴巻きへ包んで――」と言うと、そこへ供の新助が口をはさんで、

「アアそうだ! そういえば、きょうここへまわる前に出羽様へうかがったんでしたね。あそこのお作事でお受け取んなすった小判三十両、あれは御隠居所のお手付けでございますか」

「何を言やがる! こんどの請負は二千三百両。近えうちに前金が千両さがる。それでなけア大工の足留め金を出すことができねえ」

「へえ? 豪勢な御普請ですねえ。じゃアあの三十両がなんのお金で!」

「あれは正月の手間の払い残りがあったのをくだすったんだ。ホラ見ろ、丸にワの字、松平出羽守様の極印が打ってあらア」

と、その出羽守様のしるしをうった小判とお艶の身売り金とをいっしょに懐中にして、棟梁伊兵衛はお艶に別れを告げ、新助に提灯を持たせて銀町へ帰っていったのだが。

しょんぼりと一人、まつ川の戸をくぐって部屋へ通ったお艶。

変わった姿にともすればもよおす涙が、今夜はひとしお過ぎ来し方ゆく末などへ走って、元相馬藩士和田宗右衛門というれっきとした武士の娘がなんの因果か芸者などに身をおとして! と耐らぬ自嘲の念が沸き起こる一方、考えてみれば、ついこの間まで水茶屋をかせいでいた自分