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たんげさぜん

丹下左膳

林 不忘

01 乾雲坤竜の巻

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 340,187 字 · 666 页

青空文庫

伊兵衛にすまぬ!

この忠相が、手を下さずして殺したようなものとも、いえばいえようも知れぬ。

アアア、手おちであった……とおのれを責めるにやぶさかならぬ忠相が、ひとり心の隅々を厳正のひかりに照査して、すこしなりとも陰影を投げるわだかまりに対しては、どこまでも自らを叱って法道のまえに頭を垂れ、悔いおののいていると、

この、粛然襟を正すべき名奉行の貴い悶えもしらずに、忠相の足もとに嬉々としてたわむれる愛犬の黒犬。

「黒か、わしは馬鹿じゃったよ。大馬鹿じゃったよ。おかげで人ひとり刀の錆にして果てた。なア、そうではないか」

黒は、喜ばしげに振り仰いで……ワン!

「おお、そちもそう思うか」

わん! ウアン、ウウウわん!

「はははは、おれをののしるか? うん、もっともっと罵倒するがよい!――奉行いたずらに賢人ぶるにおいては……ううむ! いや、たしかにわしの過失であった」

と忠相は、ただ一工人の死がそれほど心を悩まし、さかのぼってまで彼の責任をたたかずにはおかないのか――? 傍で見る眼もいたいたしいほど苦しんでいるのだ。

ほとんど瑕とはいえないほどの微小な瑕ですらも、それがおのれのうちにあるごとく感じられる以上、どこまでも自己を追究して、打ち返し築きなおさずにはいられない大岡忠相であった。