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たんげさぜん

丹下左膳

林 不忘

01 乾雲坤竜の巻

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 340,187 字 · 666 页

青空文庫

影芝居

お艶と泰軒が大岡様のもとにかち合って、そして日本橋で別れた、その日の夕刻である。

今夜もまた灯油が切れたのか、もうすっかり暗くなっているのにまだ灯もつけずに、泰軒は例によって万年床から頭だけもたげているものとみえて、何だか低いところから声がしている。

……小豆をすこし買ってこいというのだ。栄三郎は、手探りでべに絵の木箱をおろすと、もう一度のぞきこんでたずねてみた。

「小豆を――? もとめて参るはいとやすいが、なんのための小豆でござる?」

すると泰軒、暗いなかでクックッ笑い出した。

「アハハハ、知れたこと、赤飯をたくのだ」

「赤飯を? 何をまた思い出されて……しかし、蒸籠もなく、赤飯はむりでござろう?」

「なに、赤飯と申したところで強飯ではない。ただの赤いめしじゃ。小豆を入れてナ」

「ほう!」

と軽く驚いた土間の栄三郎と家の中の泰軒とのあいだに、闇黒を通して問答がつづいてゆく。

「ホホウ! 泰軒どのが小豆飯を御所望とは、何かお心祝いの儀でもござってか――?」

「さればサ、ほんのわし個人の悦びごとを思い出しましてな、あんたとともに赤飯を祝いとうなったのじゃ。お嫌いでなければつきあっていただきたい。