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たんげさぜん

丹下左膳

林 不忘

01 乾雲坤竜の巻

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 340,187 字 · 666 页

青空文庫

ではない。まったくのところこれが泰軒先生独特の持ち前で、その証拠には逸はやく乾雲を鞘走らせた隻眼片腕の刃妖左膳と、一歩さがって大刀の柄に手をかけた月輪軍之助の両剣妙を前面にひかえて、泰軒先生、このとおりニヤニヤと鬚を動かしているだけだ。

「乞食坊主とはいささか的をはずれたぞ、いかさま拙者は乞食かも知れぬが、坊主ではない。以後ちと気をつけてものをいわっしゃい」

「よけいなことを吐かしくさる! たった今その舌の根をとめてつかわすからそう思え!」

「ホホウ! それは耳よりな! おもしろかろう」

と、うそぶいた蒲生泰軒。貧乏徳利を片手にさげて半ば眼をつぶり、身体ここにあって心は遠く旅しているがごとく、ただボンヤリと佇立しているように見えて……そうではない。

剣は手にしないが、その体置きの眼のくばりが、そっくり法にかなった自源流水月の構相――。

たかの知れた白面柔弱の江戸ざむらいとあなどっていた栄三郎に、先刻から同志の三人まで斬り伏せられて、月輪の一統、すくなからず武蔵太郎の鋭鋒を持てあまし気味のところへ、相馬からの道中さんざ悩まされた血筆帳のもち主、ヌウッとしてつかまえどころのない例のひげ男が出て来たので、のこりの連中、急に浮き足が立ちはじめた――とみた援軍の盟主月輪軍之助、手にした霜冽三尺の秋水にぶうんと、空振りの