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たんげさぜん
丹下左膳
林 不忘
01 乾雲坤竜の巻
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 340,187 字 · 666 页
意外も意外! 蒲生泰軒だ!
「やッ! 貴様はッ?」
思わずたじたじとなる源十郎へ、ゆったりと振り返って投げつけた泰軒の言葉は、いつになく強い憎悪と叱咤に燃えたっていた。
「たわけめッ! いささかなりと自らを恥じる心あらば、鈴川源十郎、サ! そこに正座して腹を切れイッ!」
「ウウム……」
うめいた時に源十郎は、腹を切るつもりかどうか、とにかくパッ! と腰間の秋水、もう鞘を走り出ていた。
泰軒はすわったまま、ジイッ!――源十郎をにらみあげている。
ふしぎ!
どうしてこのお艶の部屋に、泰軒先生が来あわせていたのか……といえば!
水の音がするので、ふと気のついた左膳は、小走りの足をとめて谷間へおりると、清冽なせせらぎにかわいた咽喉を湿おした。
弥生のいどころが知れて本所の化物屋敷からここまで息せききって急いで来た左膳である。
もうあの、向うにこんもりと見える繁みが弥生のいるという子恋の森であろう……と水を飲みおわった左膳、腰の乾雲丸を左手に揺りあげて、再び土手に帰って歩を早める。
このへん一体、鬱蒼たる樹立のつづき。
笄橋。
ここ青山長者ヶ丸の谷あいの小溝にかかっている橋で、国府の谷橋の転じたものであろうといわれているが――左膳がこの笄橋にさしかかった時だった。