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たんげさぜん
丹下左膳
林 不忘
01 乾雲坤竜の巻
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 340,187 字 · 666 页
「弥生の伊織さんか……ヘッヘッヘ、本名弥生さんてンですね、あんたは」
刹那、またしても、
「弥生どの、お待ちくだされ――!」
栄三郎の声が、あわただしく追ってくる。
その日のそぼそぼ暮れであった。
江戸の夕ぐれはむらさきに、悩ましい晩春の夜のおとずれを報じている。
陽の入りがおそくなった。
空高く西の雲に残光が朱ににじんで鳶に追われる鳥のむれであろう、ごまを撒いたように点々として飛びかわしていた。
そして。
地には、水いろの宵風がほのかに立ちそめようとするころ。
本所法恩寺まえの化物屋敷、鈴川源十郎の離庵に、ひとりは座敷にすわり、他は縁に腰かけて、ふたりの人影が何かしきりに話しあっている。
やぐら下のまつ川を泰軒の手から逃げ出して来た源十郎と――。
青山長者ヶ丸子恋の森で、栄三郎の斬先と豆太郎の飛来剣をあやうくかわしてきた丹下左膳と。
左膳は源十郎の口から弥生の居場所を聞き、源十郎は、また左膳によって、お艶がいることとのみ思いこんでまつ川へのりこんだのだから、たがいに言い分はあるはず。
「おい源十!」
左膳はもう喧嘩ごしだ。
「てめえッてやつはなんて友達がいのねえ野郎だ! 汝アおれに出放題をぬかしておびき出し、子恋の森であの人猿めに一本投げさせて命を奪る算段だったに相違ねえ。