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ここのつのかぎ
九つの鍵
野村 胡堂
「少年時代」1949(昭和24)年1月~4月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 21,349 字 · 42 页
蜘蛛の糸
蜘蛛の糸
「今晩はまったくすばらしかったよ。愛ちゃんが、あんなにピアノがうまいとは夢にも思わなかったぜ。練習しているのを聴くと、ピアノというものは、うるさい楽器だからな」
「まア、お兄さん、それじゃ褒めているんだか、くさしているんだか、わからないじゃありませんか」
狩屋三郎と妹の愛子は、日比谷音楽堂の帰り、まだおさまらぬ興奮を追って、電車にも乗らずに、番町の住居まで、歩いて帰るところでした。
「でも、演奏はまったく上出来さ、聴衆はみんなびっくりしていたよ。ベートーヴェンのソナタは少しこわいみたいだが、第二部のショパンがよかったんだ。ぼくの近所で聴いていた人たちは、まさかぼくを愛ちゃんの兄とは知らないから、――日本にもこんなに若くて、こんなにうまいピアニストがいたのかなア、多勢の外国人も来ているようだが、こんな芸術家を発見しただけでも、われわれの肩身が広い――と言っていたよ」
「まア」
愛子は少しきまり悪そうでした。妹にお世辞を言うような兄ではありませんが、面と向ってこう言われると、さすがに口がきけなかったのです。
狩屋愛子は十八になったばかり、新鮮で清潔で、ピンク色のコスモスの花のような少女でした。