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ふたつのにわ

二つの庭

宮本 百合子

「中央公論」1947(昭和22)年1、3~9月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 195,492 字 · 389 页

青空文庫

「あなたのおっしゃるとおりですわ。いくら記者のひとに話したって、気違い扱いなんですもの」

「そんな人にまでも話したの?」

「ええ」

どうしてそれがまちがっているのか、という風に平静に、伸子の世間のせまさをあわれむように、絢子は答えた。

あらゆる草木や地面からしめりけというしめりけを蒸発させて暑くかわき上っていた空の模様が変って、八月に入ったある夜、雷鳴につれて豪雨があった。

素子は、まだ京都から帰っていなかった。奥の座敷に広々とつった白い蚊帳のなかで、ひとり床に入っている伸子は、じっと目をあいて凄じいその雨の音をきいていた。茂った竹藪の竹の葉や手入れのされていない松の枝、自然な萩のしげみなどをうっておちる雨の音は柔かく幅ひろくとどろいて、そのとどろきは、しずかにねている伸子の背なかに、つたわって来るようだった。雨戸の上についた欄間のガラスから時々稲妻の青白いひらめきが白い蚊帳の上に光った。一瞬の燐光に射出された天地がたちまちまたもとの暗黒にもどるとき、豪雨はしばらくの間一層きつくなったように感じられる。雨量の大きさには、忍びこみはじめた秋が思われた。