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ふたつのにわ

二つの庭

宮本 百合子

「中央公論」1947(昭和22)年1、3~9月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 195,492 字 · 389 页

青空文庫

そういう、越智に対する伸子の否定的な感情は、越智にも反映していた。母娘の間で意見が合わないようなことがあるとき、多計代は、自分の感情に重ね合わした憎々しさで云った。

「越智さんだってこの間云っていたよ。伸子さんという人は、破壊のために破壊をする人だって――」

そんなとき、伸子は唇のふちが白くなってゆくのが自分でわかったほど激しい嫌悪にとらわれた。

客間のドアは、ぴったりしめられている。越智に対する伸子の批評に向ってしめられている。伸子は、そのハンドルにかける手をもっていない自分を感じるのであった。

心のおき場がなくて、伸子は保の勉強部屋へあがって行った。

二階の日あたりのよい畳廊下で赤いメリンスしぼりの蒲団をかけ、小さいつや子が、お志保さんに本をよんで貰っていた。背中をかがめて膝の上に支えた手の本をよんでいるお志保さんのうしろに伸子が現れると、

「ああ、お姉ちゃまが来たア」

つや子が、いかにも、その変化をよろこぶように声をあげた。

伸子は、つや子が病気だとは知らなかった。

「どうしたの? 又ゼーゼー?」

末子のつや子には、喘息の持病があった。

「二三日前雨がふりましたでしょう? あのとき学校から、ぬれておかえりになったもんですから」