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ふたつのみち

二つの途

豊島 与志雄

「新小説」1920(大正9)年5月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 51,102 字 · 104 页

青空文庫

三

その間に木下は、自分の室へ行って、和服と着換えて来た。湿布を取代えられた啓介は、※(「臣+頁」、第4水準2-92-25)を深く蒲団の襟に埋めて、静に横わっていた。木下の顔を見ると、彼は云った。

「先刻の話の絵を見せてくれないか。」

「そうだね、まだ出来上ってはいないが、見せてもいい。此処に持って来よう。」

然し彼が立ち上ろうとすると、啓介は俄にそれを止めた。

「いや、また後にしよう。何にせよ、出来上ってしまわないうちは、人に見られるのは余り快いものではない。出来上ってから見せてくれ給え。……それが出来上ったら、君に描いて貰いたいと思ってるものもあるから。」

「何だ、それは。」

啓介は口を噤んで何とも答えなかった。

三

家は、画室を除いて三室きりなかった。啓介と信子とが飛び込んで来るようにして同居してからは、自然に玄関の土間の横の三畳が婆やの室となり、奥の八畳が啓介と信子との室となり、廊下と壁とを距てた六畳が、木下の居室兼皆の食堂となってしまった。啓介が病気になってからも、ただ奥の八畳が病室に代ったきりで、何等の変化も起らなかった。

食事の時には、婆やが啓介の所についていて(勿論彼の容態が悪い時だけ)、木下と信子と看護婦と三人は、一緒に六畳で食事をした。