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ふたつのみち

二つの途

豊島 与志雄

「新小説」1920(大正9)年5月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 51,102 字 · 104 页

青空文庫

然し刺は人を遠ざける、百合のように心から人を引き寄せる気高さの方が勝っている、と信子は云った。然し百合の花のように万人に媚びるものは真の気高さではない、と木下は云った。仙人掌の花は滑稽で、滑稽なものには気品のありようはない、と信子は云った。……啓介は横から口を出した。

「お前は仙人掌の花を見たことがあるのかい。」

「いいえ。」と信子は答えた。

「なあんだ! それじゃ議論になりはしない。仙人掌の花と百合の花とは凡ての感じがよく似てるじゃないか。」

「あらそうお。」

「似てるかな?」と木下は云った。

郊外の夜は静かだった。時々遠くで汽笛の音がするのが、猶更あたりの静寂さを増した。二人は炬燵を拵えてそれにはいっていた。距てない友情、清くて温い病室の空気、更けてゆく静かな夜、それらが一つに融け合って、いつまでも木下を引止めた。思い切って腰を立てようとすると、「こんな晩は遠い旅にでも行ったような気がしますわね。」と信子が云った。啓介はうつらうつら眠っていた。その顔を見ていると、木下は自分自身が淋しくなった。啓介が眼を開くと、「よく眠れる?」と彼は尋ねた。「眠れそうだ、」