轻读日语

轻松读懂日语经典作品

ja-reading.com

轻松读懂日语,轻松阅读日语。在线阅读日语经典作品。支持在阅读过程中显示假名、查询生词、翻译句子。

ふたつのみち

二つの途

豊島 与志雄

「新小説」1920(大正9)年5月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 51,102 字 · 104 页

青空文庫

「君は早く癒らなけりゃいけない!」と木下は思い込んだように云った。

「うむ、癒るよ。屹度癒ってみせる。」

「君が健康に復したら、僕はいろいろ君に話すこともある。」

「僕だってあるさ。君の議論に凹まされはしないよ。」

木下は口を噤んだ。啓介も口を噤んだ。彼は木下の気分に自分の気分を合せることを好んだ。

然し、一寸用を思い出したからと云って木下が立ち去ると、啓介は突然不安に襲われた。室の中を見廻すと、看護婦が一人ぽつねんと炬燵にあたっていた。信子の赤いメリンスの風呂敷が本箱の上にのっていた。夜眠る時電灯を遠くに引き吊る紐が、割目のはいった柱に下っていた。

彼は耳を澄した。何の物音も話声もしなかった。不安は焦燥の念に変っていった。次の室との間の襖が、こつこつと軽く叩かれてるような気がした。襖を見つめると、またしいんとなった。襖の向うに測り知られぬ広い世界があった。その世界が真暗だった。何にも見えなかった。木下と信子とがその何処かに居る筈だった。二人は何か親しげに話をしていた……。

「尾野さん、」と彼は看護婦を呼んだ、「痰吐を空けて来てくれませんか。」

看護婦は立って来て痰吐を覗いた。