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ふたつのみち
二つの途
豊島 与志雄
「新小説」1920(大正9)年5月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 51,102 字 · 104 页
あなたの云う通りにしますから。」
啓介は何とも答えなかった。氷枕の上に頭をかすかに震わせながら、じっと眼を閉じた。雅子はその顔を覗き込んで、閉じた眼瞼から溢れて来る涙を拭いてやった。しまいには彼女の方が泣き出した。そして二人共黙り込んでしまった。
看護婦が胸の湿布を代える時に、雅子は画室の方へ行った。彼女は河村と木下とに相談した。河村は、病人の言葉に従った方がいいと答えた。医者の言葉をくり返して伝えた。木下はなんとも云わないで考え込んだ。遂に雅子は帰ることにきめた。十一時頃近所の電話をかりて容態を知らしてくれるように、木下に頼んだ。
七時半頃、頓服薬をのんで啓介がうとうと眠った後に、雅子は漸く立ち上って帰っていった。河村が自宅まで彼女を送ってやった。
帰る時に、雅子は信子へ云った。
「ではお頼みします、お疲れでしょうけれどね。いろいろ気を悪くしないで下さい。」
雅子と河村とが立ち去ると、木下と信子とは顔を見合った。二人共固くなっていた。信子は下唇をかみしめた。彼等は一言も言葉を交さずに、そのまま病室へ戻っていった。啓介は眠っていた。
その晩、信子は夜通し病人の側に起きていた。