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にじゅうしのひとみ
二十四の瞳
壺井 栄
「ニューエイジ」1952(昭和27)年2月1日~11月1日
N3 · 进阶 · 新字新假名 · 113,429 字 · 227 页
六 月夜の蟹
思いだして松江はどきどきしてきた。するといつのまにか足は、みんなの先を走りだしていた。ほかの子どももついて走った。足がもつれるほど走りつづけて、ようやく岬の家並を見たときには、松江のひざはがくがくふるえ、肩と口とでいきをしていた。村のとっつきがよろずやであり、そのとなりのわが家に、おしめがひらひらしているのを見て、安心したのである。しかし、その安心で泣きそうになった彼女は、こんどは心臓がとまりそうになった。井戸ばたにいるのが母ではなく、よろずやのおばさんだと気がついたからだ。はずんだ石ころのように坂道をかけおりた松江は、わが家の敷居をまたぐなり、走ってきたそのままの足のはこびで、母のねている納戸にとびこんだ。母はいなかった。
「お母さん……」
ひっそりとしていた。
「おかあ、さん」
泣き声になった。よろずやのほうから赤ん坊の泣くのが聞こえた。
「うわあ、わあ、おかあさーん」
力のかぎり大声で泣き叫ぶ松江の声は、空にも海にもひびけとばかりひろがっていった。
六 月夜の蟹
五年生の教室は川っぷちに新らしく建った校舎のとっつきであった。川にむかった窓からのぞくと、衽のような形の、せまい三角地をはさんで、高い石垣は川床まで直角に築かれていた。