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にじゅうしのひとみ

二十四の瞳

壺井 栄

「ニューエイジ」1952(昭和27)年2月1日~11月1日

N3 · 进阶 · 新字新假名 · 113,429 字 · 227 页

青空文庫

「うそつけえ、月夜じゃないか」

「ああ聞いた、あ聞いた。月夜の蟹はやせて、うも(うまく)ないのに」

正が確信をもっていうと、小ツルもまけようとしない。同じように正の口まねで、

「ああ聞いた、あ聞いた。月夜の蟹がうまいのに。ためしに食うてみる、みんなくれ」

「いや、こんな川の蟹でわかるかい。海の蟹じゃのうて」

それをきくと女組がわあわあさわぎたて、窓の先生にむかって口ぐちにきいた。

「せんせ、月夜の蟹とやみ夜の蟹と、どっちがおいしいん?」

「せんせ月夜じゃなあ」

マスノや小ツルやミサ子たちだった。

「さあ、ねえ。やみ夜のように思うけど……」

男組がわあっときた。

「ほらみい、ほらみい」

こんどは先生は笑いながら、

「でも、月夜のような気もする……」

女組が両手をあげ、とびとびしてよろこんだ。そうしてさわぐことがおもしろく、だれもそれを本気にして考えてはいなかったのだが、正だけは熱心に先生を見あげ、

「馬鹿いうな先生!」

すると女組がまた、わあっときた。

「先生を馬鹿じゃとい」

「ほう、タンコは先生を馬鹿じゃとい」

正は頭をかき、みんなのしずまるのをまって、やっぱりしんけんにいった。