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にかいから
二階から
岡本 綺堂
「木太刀」1915(大正4)年3、7、8、9月、1916(大正5)年1、4月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 14,761 字 · 30 页
忰はまだ若い、十八、九であろう。
昼休みの時に、彼は語った。
自分はこの商売をしないつもりで、築地の工手学校に通っていた。もう一年で卒業という間際に父に死なれた。とても学校などへ行ってはいられない。祖母は父の弟の方へ引取られたが、家には母がある。弟がある。自分は父と同職の叔父に附いて出入先を廻ることになった。これも不運で仕方がないが、親父がもう一年生きていてくれればと思うことも度々ある。自分と同級の者は皆学校を卒業してしまった。
あきらめたというものの、彼の声は陰っていた。私も暗い心持になった。
しかし人間は学校を卒業するばかりが目的ではない。ほかにも色々の職業がある。これからの世の中は学校を卒業したからといって、必ず安楽に世を送られると限ったものではない。なまじい学問をしたために、かえって一身の処置に苦むようなこともしばしばある。親の職業を受嗣いで、それで世を送って行かれれば、お前に取って幸福でないとはいえない。今お前が羨んでいる同級生が、かえってお前を羨むような時節がないとも限らない。お前はこれから他念なく出精して、植木屋として一人前の職人になることを心掛けねばならないと、私はくれぐれもいい聞かせた。