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ひとでなしのこい
人でなしの恋
江戸川 乱歩
「サンデー毎日」大阪毎日新聞社、1926(大正15)年10月1日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 17,245 字 · 33 页
七
ほほほほほほ、私はもうのぼせ上っていたのでございますわね。意識が混乱して、ふとその様な、我身に都合のよい妄想が、浮かび上るほど、それほど私の頭は乱れ切っていたのでございます。なぜと申して、あの睦言の意味を考えましても、その様な馬鹿馬鹿しい声色を使う人が、どこの世界にあるものでございますか。
七
門野家は町でも知られた旧家だものですから、蔵の二階には、先祖以来の様々の古めかしい品々が、まるで骨董屋の店先の様に並んでいるのでございます。三方の壁には今申す丹塗りの長持が、ズラリと並び、一方の隅には、昔風の縦に長い本箱が、五つ六つ、その上には、本箱に入り切らぬ黄表紙、青表紙が、虫の食った背中を見せて、ほこりまみれに積み重ねてあります。棚の上には、古びた軸物の箱だとか、大きな紋のついた両掛け、葛籠の類、古めかしい陶器類、それらに混って、異様に目を惹きますのは、鉄漿の道具だという、巨大なお椀の様な塗物、塗り盥、それには皆、年数がたって赤くなってはいますけれど、一々金紋が蒔絵になっているのでございます。それから一番不気味なのは、階段を上ったすぐの所に、まるで生きた人間の様に鎧櫃の上に腰かけている、二つの飾り具足、一つは黒糸縅のいかめしいので、もう一つはあれが緋縅と申すのでしょうか、黒ずんで、所々糸が切れてはいましたけれど