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じんがいまきょう
人外魔境
小栗 虫太郎
小栗虫太郎『人外魔境』。同一底本的分册已合并为一书。收入:人外魔境、人外魔境、人外魔境、人外魔境。
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 101,713 字 · 205 页
やはり彼も、チェコ人で梵語学者である。
「ここで、国のお方にお逢いできるとは、望外な倖せです。私は、『天母生上の雲湖』登攀の希望をもって、いささか仏教文学の方面からもあの地を究めておりますので……」
「それは」とダネックが無遠慮に遮った。
「あなたのは、つまり、教室だけの『天母生上の雲湖』でしょう。あの辺と、古代インドの交通を書いた大集月蔵という経がありますね。しかし、登行には科学的準備が要ります。もちろん、科学的鍛練、経験もものをいいます。僕は、これでも氷河とは十年も暮してますが、あの、『天母生上の雲湖』には赤児のように捻られますぜ」
「では、私なんぞには登れぬと仰言るのですね。なるほど、私にはなんの鍛練もない。氷斧を、どう使うかも知らないし、アルプスの空気も知りません。素人です。僕は、全然の無経験者です」
それには、折竹もダネックも少なからず驚いた。冗談や粋狂でゆける「天母生上の雲湖」ではない。きっとこれは、いい加減なところまで往って引き返したうえ、「わが天母生上の雲湖死闘記」などと空々しいものを発表する、許しがたい売名漢ではないのか。ダネックも、さいしょは彼の競争者として警戒を怠らなかったのが、もう聴くも阿呆らしいというような素振りになった。