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いまどしんじゅう
今戸心中
広津 柳浪
「文芸倶楽部」1896(明治29)年7月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 36,688 字 · 74 页
それを聞く嬉しさ、身も浮くばかりに思う傍から、何奴かがそれを打ち消す、平田はいよいよ出発したがと、信切な西宮がいつか自分と差向いになッて慰めてくれる。音信も出来ないはずの音信が来て、初めから終いまで自分を思ッてくれることが書いてあッて、必ずお前を迎えるようにするからと、いつもの平田の書振りそのままの文字が一字一字読み下されるように見えて来る。かと思うと、自分はいつか岡山へ行ッていて、思ッたよりも市中が繁華で、平田の家も門構えの立派な家で、自分のかねて思ッていたような間取りで、庭もあれば二階もあり蔵もある。家君さんは平田に似て、それで柔和で、どこか気抜けがしているようにも見え、自分を見てどこから来たかと言いたそうな顔をしていて、平田から仔細を聞いて、急に喜び出して大層自分を可愛がッてくれる。弟も妹も平田から聞いていた年ごろで、顔つき格向もかねて想像していた通りで、二人ともいかにも可愛らしい。妹の方が少し意地悪ではないかと思ッていたことまでそのままで、これが少し気に喰わないけれども、姉さん姉さんと慕ッてくれて、東京風に髪を結ッてくれろなどと言うところは、またなかなか愛くるしくも思われる。