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けさのゆき
今朝の雪
宮本 百合子
「婦人朝日」1941(昭和16)年4月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 11,936 字 · 24 页
「峯子は、どうなんだろう。このまんまでやって行けるかい?」
峯子にやってゆけないというわけが、どこにあるだろう!
二人は再び沈黙した。時間ではかることのできない刻々が過ぎて、いつか様々な考えの去来につれ自分の躯ぐるみ胡坐の中の峯子をもゆっくりと揺すっていた正二は、遂に、はっきりした声で、
「よし」
と云った。
「じゃ、御褒美にとっとくとしよう」
いかにも、きまった、という明るさで、正二はそう云いながら丁度手のあたっていた峯子のおしりの上のところを、無邪気にポンとたたいた。
「それでいいかい?」
「いいわ」
自然に峯子の返事もされた。
しんから頼りのある安心した、いい心持でその返事はされた。
「きっと峯子もいいと思うよ」
ほんのすこしの含羞みを輝いた眼のなかに浮べて、正二は、
「目ざめない湖の美しさのようなものだろう?」
と云った。
「だんだん、だんだん朝の光で展かれてゆくのが自然だし、見事だと思う。外部からの条件がかってはいやだろう?」
そして、
「すこし慾ばりすぎるかな」
と快活に笑った。
正二が行ってから時経つにつれて、峯子は、あのとき自分は、十分正二の気持がわかってはいなかったと思うようになった。