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ふしゅう
俘囚
海野 十三
「新青年」1934(昭和9)年2月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 14,938 字 · 31 页
夜の闇が、このまま何時までも、続いているとよかった。この柔い褥の上に、彼と二人だけの世界が、世間の眼から永遠に置き忘られているとよかった。しかし用捨なく、白い暁がカーテンを通して入ってきた。
「じゃ、ちょっと行って来るからネ」
松永は、実直な銀行員だった。永遠の幸福を思えば、彼を素直に勤め先へ離してやるより外はない。
「じゃ、いってらっしゃい。夕方には、早く帰ってくるのよ」
彼は膨れぼったい眼を気にしながら出ていった。
使用人の居ないこの広い邸宅は、まるで化物屋敷のように、静まりかえっていた。一週に一度は、派出婦がやって来て、食料品を補ったり、洗い物を受けとったりして行くのが例だった。いつまで寝ていようと、もう気儘一杯にできる身の上になった。呼びつけては、気短かに用事を怒鳴りつける夫も居なくなった。だからいつまでもベッドの上に睡っていればよかったのであるが、どういうものか落付いて寝ていられなかった。
あたしは、ちぐはぐな気持で、とうとうベッドから起き出でた。着物を着かえて鏡に向った。蒼白い顔、血走った眼、カサカサに乾いた唇――
(お前は、夫殺しをした!)