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びぜんめいきゅうでん

備前名弓伝

山本 周五郎

「講談雑誌」博文館、1946(昭和21)年5月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 24,649 字 · 50 页

青空文庫

云い出したら承知しない、急きたてられて三之丞はすぐ弓と矢を持ってきた。

藩の弓道師範に十三歳の時から就いて学び、まる五年稽古をしていた三之丞、上達したのかしないのか、てんで分らない。三左衛門がときどき師範に会って訊くと、定ったように、

「みどころはござる」という返事ばかりだ。どうみどころがあるのかと押して訊けば、「弓の道にみどころがある」という、弓を稽古しているのだからその道にみどころがあるのは当然だ。人を馬鹿にした返事だと思って、あるとき自分でしばらく稽古場へ通って見ていると、三之丞の矢はすこしも的に当らない、幾ら射てもみんな的から外れてしまうので、堪り兼ねて三左衛門が、

「これは驚いた。あれだけ射て一本も的に当らないというのは情けない、とても見込みはあるまいから止めさせましょう」

と云った。すると師範は、「いや、そう案ずることはござらん」と平気な顔で次のように云った。

「三之丞どのがこの道場へまいってから三年になる、ほかの者がめきめき腕をあげていくなかで、彼一人はすこしも進歩が表われない、ああやって幾ら矢を射てもすこしも的に当らない、しかし的に当らないのは当てようとしないからだと拙者は見ている。