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びぜんめいきゅうでん
備前名弓伝
山本 周五郎
「講談雑誌」博文館、1946(昭和21)年5月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 24,649 字 · 50 页
「うん、余の申付けだ」「かたじけのう頂戴を仕りますが、吸物椀の中にあるのはいつも牛蒡と定っております。それで雁の吸物とは牛蒡の吸物のことで、お鷹狩りとは牛蒡狩りをあそばすことだと存じたものですから、今日も牛蒡狩りが沢山あったかと訊いた次第でございます」
はっきり云ってのけたから光政も驚いたがお側の者も胆を冷やした。お鷹野で獲物があると雁の吸物の御馳走が出るのは慣例なのだが、旗本側近の者だけでもたいへんな人数だから、雁の肉がその人数へゆきわたるわけがない、しぜん中には牛蒡だけ泳いでいるということになるのは当然で、今更そんなことをいうのは云う方がどうかしている。しかし光政はその若侍の顔をみつめていたがやがてしずかに頷いて、
「そうか、それはこれまで気の毒であったな、幸い今日は獲物も多いことゆえ、まことの雁の吸物を遣わすぞ」そう云って去ろうとしたが、「その方、名はなんと申す」「恐れながら、青地三之丞と申し、お弓組に御奉公を仕ります」「すると三左衛門の甥だな」「御意にございます」
光政は奥へ入るとすぐ係りの者を呼び、家来たちにさげる吸物椀へは、必ず雁の肉がゆきわたるようにと申付けた。