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ひかりあういのち

光り合ういのち

倉田 百三

「いのち」1937(昭和12)年2月号から連載

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 130,439 字 · 263 页

青空文庫

「それはたしかにそうだ。家の鈴子などは気もちが違うらしいものね。巫女になるのを恥ずかしがらないものね。彼奴なんかどうせ嫁入りするんだからいいが、長兄は悩んでるらしいよ。……おっと食いついたぞ」

と彼はちた鯛を釣りあげた。

「僕は獲得する生活が好きだね」

と彼はピンピン跳ね返る鯛を始末しながら言った。

私の鈎には下手な故かあまり食いつかなかった。彼の獲物といつも比較にならなかった。才能が違うのだ。

私は鈴子のことを思っていた。そうして古びて、取り残されて行く悲劇の家の中で、彼女はどういう運命になって行くであろうか。なる程そう言えば行く度びに目に付くのは塀や、廊下などの荒れであった。庭の立派な大名松も手入れが届かず枯枝がまじり、畳も神殿のと違ってすすけた儘であった。お母さんの着物も粗末であった。鈴子も流行の着物は着ていなかった。ただ彼女の天然の麗質と、すらりとした美しい姿態のために身について見えるのであった。

仁田の家の中で目に付くものは古び、廃れて行く物質の中に活き残る品と礼と文雅との光であった。そのため私には一層鈴子の姿が美しく、浮き上って見えるのであった。