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ひかりあういのち
光り合ういのち
倉田 百三
「いのち」1937(昭和12)年2月号から連載
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 130,439 字 · 263 页
彼は私の叔父の家のある五日市と、河を隔てた十日市に下宿していた。
或る夏の日私が馬洗川の堤を散歩していると、彼が明笛を吹きながら向こうから歩いて来た。麦藁帽子をスマートに、リボンで飾って、矢がすりのような浴衣を着て、素足だった。
私たちはすぐ互に気が付いた。
彼はいつものように少女のような羞いを見せた。
「明笛をもっと吹いて見せ給え」
と私は言った。
彼は明笛はうまかった。
その頃流行した「自然の美」という曲を吹いた。それからチヤフル・マーチというものを吹いて聞かせた。
彼の髪は黒く、房々として美しく、眸はやわらかに露を宿しているようだった。
私は堤の草の上に足を投げ出して、その頃生意気に吸い出していた煙草に火をつけた。
私たちの目の前には、目のさめるような緑の山と、鮎のおどる清流とがあった。
彼は寄り添うように私に並んで足を投げ出した。
「あなたは音楽はおやりになりませんの」
「オルガンが少し弾けるきりだ」
「僕は今度運動会の折には音楽隊をこしらえるつもりです。僕は手風琴もやります」
と彼は得意そうに言った。
私はどうもこの子は伶人らしい、或いは俳優の子じみたところがあると思った。