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いりむこじゅうまんりょう
入婿十万両
山本 周五郎
「婦人倶樂部」大日本雄辯會講談社 、1936(昭和11)年11月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 10,650 字 · 22 页
「しかしそれは余りに」
「余りもくそもあるか、娘の口から身籠ったと申すものを、今更知らぬとは云わさぬ。もう金輪際放さぬからそう思え。わっははははは際どいところで軍配は娘にあがったな、うまい処を掴みおった、いや実にあっぱれだ、女の智恵も馬鹿にはできぬ、見ろ、浅二郎が眼をぱちぱちさせている、わっははははは」
源兵衛独り大満悦で笑うところへ、
「申上げます、城中より急のお使者にござります」
と家扶が知らせにきた。
「なに急使とな」
源兵衛は急いで出ていったが、間もなく走るようにして戻ってきて、
「浅二郎――」
と入ろうとすると、これはどうだ、あの気位の高い不由が、袂で顔を蔽い、啜りあげながら浅二郎の膝の上へうち伏しているではないか。
「今までの不束は、どうぞお許し遊ばして、ねえ……」
涙にしめった、しかし初めて女らしい潤いの滲むような声で、訴えるように云っている、
「不由は半月もまえから、貴方様のお閨を守って、淋しくお帰りを待っておりました。これからは良い妻になりまする、どうぞお見捨て遊ばさずに」
「――不由どの」
浅二郎もさすがに心を動かされたか、思わず妻の、――さよう、今こそ明らかに妻の――肩へ手を廻した。