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いりえのほとり

入江のほとり

正宗 白鳥

「太陽」1915(大正4)年4月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 25,430 字 · 50 页

青空文庫

と、辰男はぶるぶる慄えながら、顔を蹙めた妹の苦しげな様を見下していた。

「水を持ってきてくれなんだのかな」

「……徳利の湯で飲んだらよかろう」

もったいぶった兄の言葉を妹はおかしく感じた。教えられたとおりに、徳利の栓を抜いて口移しに湯を啜った。太息を吐いて、いくらか安らかな気持になって、

「階下では皆な眠とったかな。勝は心細いから、も少しそこで起きとっておくれな」

そう言われると、辰男は自分の寝床へ退くことができなかった。

「勝はこないに身体が弱うちゃ困るがな。ほかの兄弟は丈夫なのに勝一人だけは……」

「……運動せんからじゃ」

「この村にゃ厭らしい人間ばっかりおるから外へ出るのが恐ろしいもの。……辰さんは身体が強いからええなあ。家じゃ姉さんが早う死んだし、勝も長生せんように思われるけれど、女子は婆さんになるまで生きておらん方が結句仕合せなように思われる。お姉さんは家で皆なに介抱されて死んだのじゃけれど、勝は他所の土地で一人で死ぬのじゃ」勝代は疼痛が和ぐのにつれて、こんなことを言って涙を浮べた。

辰男は幾度も嚔をした。寒さに堪えられなくなるし、妹の愚な言草に興も起らないので、言葉の切れ目にその側を離れて、自分の寝床へ入った。