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いりえのほとり

入江のほとり

正宗 白鳥

「太陽」1915(大正4)年4月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 25,430 字 · 50 页

青空文庫

夜具の中へ首をすっこめて足を縮めて、冷えた身体の暖まるので、いい気持になっていたが、すると今見た手紙の内容がいろいろに想像されだして、自分に女房のできるのが不思議でならなかった。……学校の小さい生徒か母か妹かのほかには、女と口を利いたこともなければ、しみじみ女の顔を見たこともないので、思出にも若い女の影ははっきり浮ばない。山間の学校にいた時分には、土地の若い女に逢うと、極りの悪い思いをして顔を外らせていたのだったが、今は平気でいて自然に目がつかぬようになっている。……彼れは自分の縁談から、どんな男にも、女房のあることに思い及んで、妙な気がした。そして勝代が出て行った後で、まだ見たこともない女と自分とが、この二階に住うことを、夢のように感じながら、ぐっすり睡眠に陥った。

翌日学校の往帰りの途中でも、彼れはしばしば結婚について珍らしげに考えた。擦違う女の姿形を無心に見過せなくて、穢しい田舎女の一人一人が頭の中に浸みこんだ。テーブルに向うには向ったが、今日の英字の解釈に早く根気が疲れて、所在なさにしばしば机を離れては障子を開けて外を眺めた。

西風の凪いだ後の入江は鏡のようで、漁船や肥舟は眠りを促すような艪の音を立てた。