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やつがたけとざんき
八※[#小書き片仮名ガ]岳登山記
亀井 勝一郎
「旅 第三一巻第八号」日本交通公社、1957(昭和32)年8月1日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 5,639 字 · 12 页
ところで戦後はかなり旅行する機会が多く、その中でも長野県へは一年に七、八回も旅行することがあった。中央線で松本の方へ、或は塩尻から木曽路へ、春夏秋と、いくたびか出かけるようになった。
八※岳は、したがって早くから私の眼に映っていた。形の複雑な、どこか奇怪で神秘的なところもある一風変わった山だなと思っていた。自然の巧みな造型力を、この山などは典型的に示しているのではないかと思ったりした。仮に「美術品」という言葉を使うなら、八※岳などは山の中での「美術品」と言っていいかもしれない。
「美術品」となった山の代表は言うまでもなく富士山で、絵画はむろん、床の間の置物やみやげものにまでなって、それだけ俗化したとも言える。広重の富士、北斎の富士、鉄斎の富士、大観の富士、梅原龍三郎の富士と、それぞれの時代を代表する絵画上の名品があるが、富士山はつねに改めて発見されなければ、存在しないということをそれは語っているようだ。俗化すればするほど新しい発見を画家は強いられるだろう。将来どんな形の富士山が絵画の上にあらわれるか、たのしみである。
ところで八※岳の方は、未だかつて俗化したことはない。