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やつがたけとざんき

八※[#小書き片仮名ガ]岳登山記

亀井 勝一郎

「旅 第三一巻第八号」日本交通公社、1957(昭和32)年8月1日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 5,639 字 · 12 页

青空文庫

御来迎を見る

山頂に立ったと云っても赤岳のてっぺんではなく、石室に近いその一部の尾根の上である。

ところがその山頂なるものに驚いた。いかにそそり立った山とは言え、頂上は相当ひろびろしていると思った。ところが巌石の一角に手をかけて、空を走る白雲を眺めながら、いきなり顔を出したとたんに、反対側は忽ち断崖絶壁で向う側へひっくりかえって落ちそうな感じであった。そして、眼下にいきなりひらけたのは松原湖から小諸の方へのつらなる平原であった。二千数百メートルの高さから、脚下に信州の東西両側の風景がみられた。山上に立つと、さすがにほっとして、疲れさえ感じない。時々霧におそわれたが、それが晴れると今登ってきた側のはるか彼方に、日本アルプスの連山、正面に木曽の御嶽山の威容がのぞまれた。全体の風景は、薄みどりの天然色映画のようである。淡い霧がかかっているので、平原も山林も、大湖底に沈んでいる薬草の群れのようにみえる。

御来迎を見る

午後になると霧は一層深くなって、八※岳全体を見渡すことが出来なかったのは残念である。巌をとりまいて疾風のようにからみつく霧の中を、赤岳から横岳を経て、硫黄岳の方へ、山の尾根を縦走した。