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やつがたけとざんき

八※[#小書き片仮名ガ]岳登山記

亀井 勝一郎

「旅 第三一巻第八号」日本交通公社、1957(昭和32)年8月1日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 5,639 字 · 12 页

青空文庫

最上の快楽

天狗山のあたりには高山植物も多い。とくに、駒草というのは実に可憐な植物だ。岩間の陰に、薄くれないの小さな花を咲かせているのが好ましかった。そのすこし前、私は木曽の上松小学校の校歌をつくったが、そこの徽章が駒草であった。わたしは写真だけでみて駒草のことを歌ったが、実物を見るのはこのときがはじめてである。それと天狗岳から夏沢峠まで下る間の巌石と這い松のつづいているところが面白かった。自然の一大庭園といった感がある。

登山も苦しいが下山も苦しいものだ。天狗岳から黒百合平、夏沢峠を通り、渋温泉まで辿りつく道は、先の赤岳への道のように、険しいというわけではないが、石ころの道はすべりがちであったし、膝ががくがくして、ここでも私は十メートルぐらい歩いては休みながら、一番おくれて渋温泉に辿りついた。先着の堀内君や息子たちは、すでに温泉からあがって涼んでいた。

最上の快楽

八※岳へ登ってみると、実に変化にとんだ複雑な山だということが改めてわかる。私は親しみにくい、気むずかしそうな山だと言ったが、その理由のひとつは、変化のもたらす神秘感であるらしい。その神秘感をもたらすのは絶えず襲ってくる霧のためであるらしい。