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へいほうしゃ

兵法者

山本 周五郎

「新武道」1944(昭和19)年7月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 8,184 字 · 16 页

青空文庫

さむらいの奉公は御しゅくんに身命を捧げるところから始る、だが身命を奉るということはなまやさしい問題ではない、その覚悟が家常茶飯のなかに溶けこみ、まったく常のものになりきっていなければ、その時に当面しても「死ぬ」ことはできないであろう、なにがしは奉公の性根ということを口にし、身命を捧げると云いながらそれほどの試みにも堪えることができなかった。光圀がかれを試みたのは、さむらいの生き方のきびしさがどのようなものかを悟らせるためであった、自分がさきに一個のさむらいとして、きびしく身を持した光圀のこしかたを思い返せば、それは寧ろ慈悲であったというべきだろう。――だが、このおれはどう生きてきたか、幾右衛門はあらためて自分をかえりみた、そして、慄然と息をのむよりほかになかったのである。……更けてゆく夜をこめて、雨は小歇みもなく降りしきり、炉の火のはぜる音が、ときおり部屋のうちにひっそりと反響をよび起していた。