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しょや

初夜

山本 周五郎

「週刊朝日春季増刊号」朝日新聞社、1954(昭和29)年3月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 17,384 字 · 35 页

青空文庫

これは藩の「練志館」の師範になるための専門的な修業で、すでに門中でも上位者のなかにあり、まもなく業を終えて帰藩したが、江戸にいるあいだは親身になって代二郎の世話をしてくれた。少年じぶんからつきあいはあったけれども、その二年余日の江戸の生活で、互いに心をゆるしあうようになった。少なくとも代二郎にとってはそう思えた。

代二郎が江戸から帰ると、久良馬が来て「練志館」でもう少し仕上げをするようにとすすめた。代二郎は断わった、彼は武芸にはあまり興味がもてなかったのである。久良馬は失望したらしいが、むりにはすすめなかったし、それからもずっと親しい往来が続いた。久良馬はよく脇屋へ訪ねて来たし、代二郎もしばしば除村へ招かれていった。この期間に彼は桃世を知ったのであるが、帰藩して三年めの春、久良馬が結婚してからまもなく、彼も桃世と婚約をむすんだ。

桃世はそのとき十四歳であった。兄に似て膚は浅黒く、痩せて、小さな少女だった。眼のくりくりとした、賢そうな顔だちで、気質の明るい、よく笑う、いかにもすなおなところが、代二郎の気にいった。代二郎の母はもっと気にいって、彼の鑑識を褒めた。