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ぜんきてんまやけ

前記天満焼

国枝 史郎

「文芸倶楽部」1927(昭和2)年6月~10月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 48,568 字 · 98 页

青空文庫

その一画を通り過ぎると、広大な裏庭になっていて、離れ座敷に相違ない、三間造りの建物があり、母家と渡り縁で繋がれていた。

その建物の中の部屋の、襖の前まで来た時である。

「このお座敷なのでございますよ」

こう云って番頭は辞儀をしてみせた。

14

「なるほど」と云ったが丁寧松は、開けてみようともしなかった。

「結構なお庭でございますなあ」

こんなことを云い出してしまったのである。

築山、泉水、石橋、燈籠、一流の旅籠の庭だけあって、非の打ちどころのないまでに、まさに結構な庭ではあったが、築山の横に木立に囲まれ、古々しい一棟の離れ座敷の、家根の瓦の見えるのが、全体の風致を害していて、欠点といえば欠点とも云えた。

「腰かけてお話しいたしましょう」

縁からダラリと足を下げ、縁へ腰かけた丁寧松は、さも悠暢に云い出した。

「お話を聞こうじゃアございませんか、どんな恰好でございましたかね?」

「へい?」と云ったものの番頭は、何の意味だが解らないらしい。

「何さ、昨夜の泊り客のことで。詳しく話していただきましょう」

「あ、その事でございますか。はいはいお話し致しますとも」

そこで番頭は話し出した。