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けんきょう
剣侠
国枝 史郎
「山形新聞」1936(昭和11)年3月~8月18日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 156,961 字 · 310 页
そこで両雄並び立たず、面と向うと何気無い顔で、時候の挨拶から世間話、尋常の交際はしていたが、腹の中では機会があったら、蹴込んでやろうと思っていた。
野良路には露があり、それが冷々と足を濡らした。
「杉さん、賭場をどうお思いかね?」
並んで歩いている浪之助へ、こう林蔵は声をかけた。
「今日はじめて見た賭博の場、いや洵に愉快だった」
ほんとに浪之助は愉快そうに云った。
「一瞬間に勝負がつき、突嗟に金銭が授受される。……息詰まるような客人の態度。……細心な中盆の壺の振り方。……万事が真剣で緊張していて、見ていても自ずと力が入る。……」
「アッハハ大変ですねえ、お侍さんだけに渡世人と異って、物の見方が面白いや。……まあどうかあんなものへは、決してお手を出しませんように」
「いやわしはやるつもりだ。今日ははじめてのことであり、駒の張り方さえ解らなったが、一日の見学でよく解った。この次からはわしも張るつもりだ」
「いけませんよ杉さん、そいつは不可ない。あいつに手を出して味を覚えると、一生涯やめられません。……やればやるほど深みへ入り、財を失い人を悪くし、碌なことにはなりません」