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ばけいちょう

化銀杏

泉 鏡花

「文芸倶楽部」1896(明治29)年2月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 27,197 字 · 54 页

青空文庫

大きな眼鏡のね、黒磨でもって、眉毛から眼へかけて、頬ッペたが半分隠れようという黒眼鏡を懸けて、希代さね、何のためだろう。それにあのそれ呼吸器とかいうものを口へ押着けてさ、おまけに鬚を生やしてるじゃあないか。それで高帽子で、羽織がというと、縞の透綾を黒に染返したのに、五三の何か縫着紋で、少し丈不足というのを着て、お召が、阿波縮で、浅葱の唐縮緬の兵児帯を〆めてたわ。

どうだい、芳さん、私も思わず知らず莞爾したよ、これは帰って来たのが嬉しいのより、いっそその恰好が可笑かったせいなのよ。

病気で帰ったというこッたから、私も心配をして、看病をしたがね、胃病だというので、ちょいとは快くならない。一月も二月も、そうさ、かれこれ三月ばかりもぶらぶらして、段々瘠せるもんだから、坊やは居るし、私もつい心細くなッて、そっと夜出掛けちゃあお百度を踏んだのよ。するとね、その事が分ったかして、

(お貞、そんなに吾を治したいか)ッて、私の顔を瞻めるからね。何の気なしで、(はい、あなたがよくなって下さいませねば、どうしましょう、私どもは路頭に立たなければなりません。)と真実の処をいったのよ。