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ばけいちょう

化銀杏

泉 鏡花

「文芸倶楽部」1896(明治29)年2月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 27,197 字 · 54 页

青空文庫

「ちょいとこ、ちょいとこ、ちょいとこさ。」

と渠は、もと異様なる節を附し両手を掉りて躍りながら、数年来金沢市内三百余町に飴を売りつつ往来して、十万の人一般に、よくその面を認られたるが、征清のことありしより、渠は活計の趣向を変えつ。すなわち先のごとくにして軒ごとを見舞いあるき、怜悧に米塩の料を稼ぐなりけり。

渠は常にものいわず、極めて生真面目にして、人のその笑えるをだに見しものもあらざれども、式のごとき白痴者なれば、侮慢は常に嘲笑となる、世に最も賤まるる者は時としては滑稽の材となりて、金沢の人士は一分時の笑の代にとて、渠に二三厘を払うなり。

お貞はようやく胸を撫でて、冷かに旧の座に直りつ。代価は見てのお戻りなる、この滑稽劇を見物しながら、いまだ木戸銭を払わざるにぞ、(ちょいとこさ)は身動きだもせで、そのままそこに突立ちおれり。

ややありてお貞は心着きけむ、長火鉢の引出を明けて、渠に与うべき小銭を探すに、少年は傍より、

「姉さん、湯銭のつりがあるよ、おい。」

と板敷に投出せば、(ちょいとこさ)は手に取りて、高帽子を冠ると斉しく、威儀を正して出行きたり。