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じゅうはちじょうおつ
十八条乙
山本 周五郎
「オール読物」文藝春秋新社、1962(昭和37)年10月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 13,127 字 · 26 页
一
一
その事のおこる五日まえ、西条庄兵衛は妻のあやに火傷をさせた。切炉で手がすべって湯釜を転覆させたとき、ちょうどあやが火箸を取ろうとしていて、その右手の先へ熱湯がもろにかぶってしまったのだ。叫び声をあげたのは脇にいた母のたえであった。あやはなにも云わず、庄兵衛は狼狽して、すぐに薬箱を取りに立った。母はあやの手にあり合う布を巻き、やけどの手当なら知っているからと、女中を呼びながら台所へいった。そしてうどん粉を酢でこねたものを作り、それをあやの手へ塗って、上から晒し木綿を巻いた。
「わるかったね、おれの粗忽だ」と庄兵衛は繰り返し詫びた、「痕にならなければいいが、大丈夫だろうか」
「大丈夫ですとも」気丈なあやは明るく頬笑んだ、「湯をかぶっただけですもの、そんなにおおげさに仰しゃらないで下さい」
結婚して二年、まだ子を産まないせいか、あやは二十二歳になるのに娘らしさがぬけていない。実家の安田は三百石の寄合職で、父の勘五左衛門は隠居し、家督した長兄の又次郎には二人の子があった。あやは五人きょうだいの三番めであり、唯ひとりの女だったから、きびしい躾とともに、あまやかされて育った明るさと、暢びりした楽天的なところをもっていた。