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じゅうはちじょうおつ
十八条乙
山本 周五郎
「オール読物」文藝春秋新社、1962(昭和37)年10月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 13,127 字 · 26 页
「おれは政治は嫌いだ」とすぐに彼は続けた、「政治なんぞには爪の先ほども関係したくなかったが、伊原はけがをしていたしおまえの従兄だ、妻の縁者であり重傷を負っている者を、いやだと追い払うことができるか、断わると云って、あの雪の中へ追い返せばよかったというのか」
「おれは伊原を背負って、あの川を脛まで浸してあるいた」庄兵衛はしだいに激昂しながら云った、「そして別れるときに、伊原はなんと云った、――西条のしてくれたことは、おれにしてくれたのではない、この藩ぜんたいのためにしてくれたことになるんだって、おまえも聞いていたろう、伊原はその口でこのとおりのことを云ったんだ、そうではなかったか」
庄兵衛は立ちあがり、刀を持って庭へとびおりた。庭には若木の八重桜が一本、もったりとおそ咲きの花をつけていた。彼は刀を抜き、鞘を縁側に置くと、足袋はだしのままそっちへいって、絶叫しながら刀を振った。珍しいほどよく晴れた夜で、月の光が明るく、庄兵衛の刀はその光を映してきらめき、若木の八重桜は花をつけたまま、中ほどから切断されて倒れた。
あやは袂で顔を掩い、けんめいに泣くのをこらえていたが、桜の切り倒された音を聞くと振返って、立ちあがるなり自分も庭へ走り出ていった。