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はんのすけしゅうげん

半之助祝言

山本 周五郎

「キング」大日本雄辯會講談社、1951(昭和26)年7月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 21,997 字 · 44 页

青空文庫

「どうですこのありさまは」

葵太市が大道路を指さして云った。

「たとえば合戦という場合、敵の軍勢が押して来たとすれば城下外一里半の地点から城の大手門まで見通しじゃないですか、しかも道幅十六間、敵は兵馬一体の大突撃がやれますよ」

「城の守り、といったものか、機密といったものかどうか」立原平助が云った、「――これではまったく、われわれとして防戦の責任がもてないと思いますねえ」

「単にそれだけではない」弥九郎が頬髯をそよがせた、「――この道筋改修のために、古くから老舗として繁昌していた店が五軒も没落し、井戸へ身を投げて死ぬ者、自暴自棄、やけくそになって放蕩に耽る者、夫婦離別、親子わかれ、実に悲惨な出来事が数えきれぬほどあった」

半之助はかれらの説を神妙に聞いていた。ときに眉をしかめたり首を傾げたりしたが、自分からはついになにも云わなかった。しかし、そこを終って、外壕の埋立て耕地へいったときは、そう神妙にばかりしてはいられなかったのである。

外壕は大手の西、二の曲輪の下から乾口へかけて、幅二十五間、長さ五町三十一間という面積を占めている。深さは路面から水底まで三丈二尺あったそうで、埋立てた今でも道からは六尺以上も低くなっていた。