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はんのすけしゅうげん

半之助祝言

山本 周五郎

「キング」大日本雄辯會講談社、1951(昭和26)年7月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 21,997 字 · 44 页

青空文庫

三

事前のうちあわせやなにかで、半之助はしばしば前田老職と会った。この次席家老は痩せてしなびたような躯に、しなびた猿のような顔をして、いつも精のない、悲観的な調子でものを云う癖があった。

――なるほど。と半之助はたびたび思ったものである。

いつかの庭番の元締みたような爺いが云ったが、まったく落し物をしたような顔だし、胆石もちかもしれない、うまいことを云う爺いだ。

前田甚内はいろいろ注意をして呉れた。笙子嬢のことも云ったが、特に図書助は顔を見られるのを嫌うから、できる限り顔を見ないように、と念を押した。

「しかしそれはぐあいが悪いですね、いつも側にいて顔を見ないというのは」

「会えば尤もだと思うでしょう」

甚内は低い声で云った。

「――若い者どもはおっとせいなどと、いや、会えばわかる筈です」

三

初めの日は前田甚内に伴れられて埴谷邸へいった。驚いたことに、それは一条町の、彼が藩侯の別殿かと思ったあの壮大な邸宅であった。

二人は控えの間で支度を直し、第一の取次ぎに案内されて第一の接待の間へ通され、そこで四半刻ばかり待たされてから、第二の取次ぎによって、第二の接待の間へ通った。