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はんのすけしゅうげん

半之助祝言

山本 周五郎

「キング」大日本雄辯會講談社、1951(昭和26)年7月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 21,997 字 · 44 页

青空文庫

釣り場は例の竜神川であった。

いつも来る処とみえて、川柳の茂った流れの岸に、白木で作った腰掛と台が出来ている。そこはむろん堤防の内側で、川床の中央に近い場所だった。半之助は擽ったそうに、脇を向いてにやにやした。

あれだけの大堤防を築造したのに、河原のまん中にこんな物を拵えて、これが流されもせずにいるのがなんとも皮肉にみえたらしい。だが彼はそんなことは云わず、黙って枯草の上に腰をおろした。

図書助は肚を立てたように、午の弁当まで口をきかなかった。魚も本当に釣る気かどうか、下僕に餌を付けさせ、浮木下のあんばいもなにもなく、鈎を放りこみ、思い出したようにあげてみて、餌を替えさせてまた放りこむ。あとはまわりを眺めまわし、もう一人の下僕に煙草をつけさせて喫ったり、また河原で湯を沸かさせて、茶を啜ったり菓子を喰べたりした。

午の弁当のあとで、図書助はふきげんな眼で半之助を見ながら、

「男が容貌のことなど口にするものではないぞ」

と云った。

半之助は平気な顔で、いやにあっさりとやり返した。

「容貌のことであろうとなんであろうと、間違ったことを云う者があれば、それは間違いだと私は云います」