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はんのすけしゅうげん
半之助祝言
山本 周五郎
「キング」大日本雄辯會講談社、1951(昭和26)年7月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 21,997 字 · 44 页
彼の声は濡れてゆくようだった。
「――私は三男の暴れん坊で手のつけられない悪童だと云われました、父や兄はもちろん母でさえ私にはやさしくして呉れませんでした、私はいつも叱られたり罰をくったり、折檻されてばかりいました、……そのなかで唯一人、その人だけは私を庇い、私の味方になり、私を慰さめ、愛して呉れました、私が罰をくうとき、折檻されるとき、その人だけは詫びて呉れたり、一緒に泣いて呉れたりしました、……この世で私のたった一人の人、忘れることのできない、懐かしい、たった一人の人、お許し下さい、貴女がその人に瓜二つといってもいいほど似ていらっしゃるんです」
半之助は懐紙を出してそっと顔を掩った。夫人もたいそう感動したようすで、幾たびも頷きながら包むように彼を見た。
「そしてそれは、貴方にとってどういう方でしたの」
「姉でした」彼は低い声で答えた、
「――私の口から云うのはへんですけれど、非常に美しい人で、それはもう非常に美しくって、私は子供ごころにも姉の美しいのが自慢だったのです」
「その方はもうお嫁にいらしったのね」
「いいえ亡くなりました、十九の年に、嫁入りを前にして死んでしまったんです」