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はんのすけしゅうげん
半之助祝言
山本 周五郎
「キング」大日本雄辯會講談社、1951(昭和26)年7月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 21,997 字 · 44 页
いったいどこへいったか、図書助は笑いやんで、太息をついて、涙を拭きながら妻にわけを話し、
「さすがに気がついて、早いところ逃げだしたんだろう、どんな面をしておるか」
そのとき障子があいた。
図書助はびくっとして振返った。
夫人もそちらを見た。笙子嬢である、……笙子嬢はひどく羞かんで、俯向いて、肩をすぼめるような姿勢で(これまで曽て見たことのない)嫋々とした身ごなしでそこへ坐り、しなしなと両手をつき、甘い、溶けるような声で云った。
「お父さま、お母さま、お願いでございます、どうぞわたくしを、折岩さまとご一緒に、江戸へゆかせて下さいまし」
廊下で半之助がえへんと咳をした。
城下町の外れの畷道に、玄武社の幹部たちが集まって、道の彼方を睨みつけていた。かれらのお揃いの頬髯が、爽やかな早朝の風にいさましくなびき立った。
「狡猾と云ったものか、すばしっこいと云ったものかどうか」立原平助が云った。
「――あいつは江戸から来て、さんざっぱらわれわれを愚弄して、おまけに笙子嬢までひっ掠って、そうして、ひらりといっちまったねえ」
彼は手をひらりと振ってみせた。かくて折岩半之助は、江戸へ帰任した。