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なんきんむしさつじんじけん

南京虫殺人事件

坂口 安吾

「キング 第二九巻第五号」1953(昭和28)年4月1日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 12,660 字 · 26 页

青空文庫

この男なしには奈々子が生きられなかったという意味は、モルヒネが奈々子の命の綱だったという意味なんです。そして私の知る限りでは、二人の関係は純粋な商取引だけのようでした」

「奈々子さんの生活費はどれぐらいかかりましたか」

「私が与えていた定額は毎月五万円、それに何やかやで七八万になったかも知れませんが、奈々子はモヒの費用のために女中も節約していたほどで、いつもピイピイしていましたね」

この証言に至って、それまでの見込みが怪しくなってきたのである。ミス南京ともあろうものがそんなにピイピイしているはずはない。彼女がそれまでに稼いだ額はたぶん一億以上にのぼるだろうと見られているのだ。

もっとも、ミス南京が密売線上に現れてから、まだ五ヵ月ぐらいにしかならないから、勝又と別れた後のことではあるが、今も奈々子の押入の中には果汁のカンヅメとモヒのアンプル以外に目星しい品物は何もない。美女にとっては命ともいうべき衣裳類すら何もなく、着ている和服が一チョウラのようなものであった。ピアノすら売り払ったらしく、影も形もなくなっているのだ。自分が麻薬の密売もやりながら、麻薬のために所持品を売りつくしてピイピイしているミス南京は考えられないのである。