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なんきんむしさつじんじけん

南京虫殺人事件

坂口 安吾

「キング 第二九巻第五号」1953(昭和28)年4月1日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 12,660 字 · 26 页

青空文庫

「日本語で仰有い。私、日本人と同じぐらい日本語が上手よ。日本で育ったから。あなた、本当に、女のお巡りさん?」

「ええ、そうです」

「まア、可愛いいお巡りさんだこと。男の犯人をつかまえたことあって?」

「いいえ、まだですけど」

「猛犬がうろついてる中国人の邸内へ一人でくるの心配だったでしょう」

「ええ。ですから、お嬢さまにお目にかかって、目がくらんでしまったのですわ」

「お上手ねえ。お答えできる範囲のことはなんでも答えてあげますから、用件を仰有って」

「先夜、この邸内へ逃げこんだまま行方が消えてしまった容疑者のことなんですけど、そのとき庭に放されていたはずのドーベルマンとシェパードが闖入者を見逃した理由が分らないのです」

令嬢はいかにも同意するようにうなずいた。

「それは本当にフシギなことね。ですけど、知らない人たちが空想するほど、犬は利巧でもなく、鋭敏でもないらしいのね。これは飼い主の感想です」

「御当家へ出入りの男でしたら、犬は闖入者を見逃すでしょうか」

「特別犬と親しければ、ね。ですけど、犬が見逃すほど親しい男といっては、たぶん父のほかにいないでしょうね」

「お父さまはいま日本にいらッしゃらないのでしょう?」