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なんきんむしさつじんじけん

南京虫殺人事件

坂口 安吾

「キング 第二九巻第五号」1953(昭和28)年4月1日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 12,660 字 · 26 页

青空文庫

「室内へあげたんなら、怪しい来客じゃないんじゃないの?」

「そうかも知れんな。しかし、やりかけたことだから、様子を見届けよう」

物蔭にかくれて待伏せていると、やがて二人の男が門の外へ現れた。遊び人風の方が例のボストンバッグをぶらさげている。

二人は電車通りへの方向とは反対の淋しい方へ歩いて行く。

「あっちの方角へ行くんなら、歩いて行けるところに住居があるのだな。突きとめてやろう」

「ええ、そうしましょう」

二人は三十間ほどの間をおいて後をつけはじめた。出まかせに会話しながら、いかにもクッタクのない通行人のフリをして後をつけた。どうも、これがマズかったようだ。

二人はなかなか歩きやまない。とうとう世田谷の区域をすぎて、渋谷区へはいった。ここから丘にかかると、戦災で大方やられているが大邸宅地帯。この丘を越すと、渋谷の繁華街の方へでる。

世田谷で電車を降りて渋谷区まで歩いて帰宅する勤人というのは変だ。この辺へ帰宅するには他の停留所で降りなければならない。波川父娘はシマッタと顔見合せて、

「さとられたかも知れないな。しかし、奴らも電車を利用せずにこれだけ歩くというのはクサいぞ。