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なんろ

南路

宮本 百合子

「太陽」1922(大正11)年1月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 31,813 字 · 63 页

青空文庫

母親はなおも彼女を呼び呼び駈けて行く。――とうとう辛抱が出来ないで、小娘らしくおこりながら、自分も後から勢よく駈けつける。

その様子を見ると、私は微笑まずにはいられない。嘗て十六七であった女は、誰でも一度や二度、こんなに、笑いながらも涙をこぼさずにいられないような場合を経験しているだろう。――

然し、長い列車は、決してこのように平民的な笑の種ばかりを載せてはいない。

彼方のコムパアトメントには“Vogue”の中から抜け出して来たような若夫婦がいる。また、静かな軍人の家族も見える。

特に自分は、後者から深い印象を与えられた。

その陸軍軍人は、位官は何だか、相当の地位にある人らしい容貌と挙動とを具えている。若い婦人と生れて間もないらしい嬰児との三人づれで、ちょくちょく展望車に行く道すがら、我々の横を通り過ぎるのである。

始め、彼が逞しい軍服の腕に、大切そうに白い柔毛ずくめの嬰児を抱いて行くのを見たとき、自分は、彼等が父親、娘、孫という関係にあるのだと想像した。

パアジング将軍の模写のように颯爽(さっそう)たる彼の風姿は、見る目にも鮮やかだけれども、髪や髭は、大部分白くなっている。