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めいじんじごく

名人地獄

国枝 史郎

「サンデー毎日」1925(大正14)年7月5日~10月25日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 149,286 字 · 301 页

青空文庫

こんなことから親しくなり、恋でもうまく醸されようものなら、こいつとんだ儲けものだ。といって誘惑するのではないが、だが美人と話すのは、決して悪いものではない。第一生活に退屈しない。よしきた、一番ひき受けてやれ」

そこで彼は元気よくいった。

「よろしゅうござる、助太刀しましょう」

厳重を極めた邸の様子

「もうこうなりゃア謡なんか、どうなろうとままのかわだ。面白いのは恋愛だ! 恋よ恋よ何んて素敵だ!」

これが銀之丞の心境であった。

つまり彼は九郎右衛門の娘、お艶というのと恋仲になり、楽しい身の上となったのであった。

だがしかし恋の描写は、もう少し後に譲ることにしよう。

助太刀の依頼に応じてからの、観世銀之丞というものは、九郎右衛門の別荘へ、夜昼となく詰めかけた。

彼の眼に映った別荘は、まことに奇妙なものであった。まずその構造からいう時はきわめて斬新奇異なもので、宅地の真ん中と思われる辺に、平屋造りの建物があった。一番広大な建物で、城でいうと本丸であった。ここには九郎右衛門の肉親と、その護衛者とが住んでいた。その建物の真ん中に、一つの大きな部屋があった。